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もう1つの「300」(やはりネタバレあり)

炎の門―小説テルモピュライの戦い (文春文庫)

炎の門―小説テルモピュライの戦い (文春文庫)

…という本があります。現在は品切れなのか、元は950円の文庫本にすごい高値がついているようですが。クワルナフ・ブログによれば、ジョージ・クルーニーのプロデュース、ブルース・ウィリス(!)主演でこの小説の映画化プロジェクトが企画されていたが、製作がストップしているとのこと。

実は今回の「300」にもところどころ、この小説を参考にしたらしい形跡はあるのですね(失礼ながら、ヘロドトスその他の原典にあたったとは思えないので)。レオニダス王の「では、みなの者。しっかり朝飯を食ってくれ。夕飯はあの世で食うことになるのだからな」(映画では「あの世」が「地獄」に)という台詞とか、ペルシア軍兵士の死体で築き上げられた塁壁が崩れるところとか…。しかし「300」全体としては

  • スパルタの神官は金と女の事しか頭にない腐敗しきった老人揃い。さらに、レオニダス王はその神官たちにわいろを贈って自分に有利な神託を得ようとする。
  • ギリシア同盟(スパルタ?)の議会シーンは個人攻撃・中傷に終始し、まともな議論はひとつも行われない。
  • スパルタ王妃ゴルゴは、レオニダス王のテルモピュライ出征中に(目的ありとはいえ)不貞をはたらいている。
  • スパルタ王レオニダスは(策略とはいえ)ペルシア王クセルクセスの面前に一度は武器を捨てて平伏した。

などなど、「何の根拠があって…?」と言いたくなるトンデモ描写が数々あり、反イラン(昔のペルシア)というよりもまず古代ギリシャ(人)を相当侮っているとしか思えませんでした。

『炎の門』は小説とはいえ、かなり真剣に古典に取り組んだり古典学者の意見を採り入れたようで、日本では「理不尽なシゴキ」の代名詞となっている「スパルタ式」教育とは実際どのようなものか、古代ギリシアにおける戦闘とはどのようなものか、詳細かつ冷静に描写がなされています。さらに、敵方のペルシア王クセルクセスについても「ずばぬけた美貌と気品ある姿」などと表現されており、ペルシア側の使者(エジプト人)の態度も礼を失せずひたすら理を説くもので、「さすが大国の余裕」と思わされます。

この小説のほうがまともに映画化されていたら感動的な見せ場がいくつもできただろうに(史実そのものにそれだけの力があるのですから)…と残念でなりません。この際、不本意ながら映画に便乗のかたちでも増刷(復刊?)したら『炎の門』、かなり売れるのではと思うのですが、文藝春秋さんいかがでしょうか?